第3話
紀元前299,990年〜紀元前299,985年
Narrator
石が石を変えることを、 この星の生き物たちは少しずつ覚えていた。
打ち合わせる。 欠ける。 刃になる。
最初は偶然だった。 次に、偶然を繰り返すようになった。 繰り返すことで、偶然を呼び込む方法を覚えた。
この星の遥か遠くの場所で、 ある者がその方法を他の者に見せていた。 言葉はなかった。 ただ、やって見せた。 相手もやった。 できた。
知識は、体から体へ渡っていた。
この集団では、まだ誰も知らなかった。
与えるもの
その者は三十七歳になった。 糸は続いていた。
硬いものは硬いもので変えられる。 何かを押した。
その者は石を持ったまま走った。 届かなかった。
五年が過ぎた。
その者(37〜42歳)
その者に、好きな女がいた。
名前はなかった。 ただ、その者はその女の声の音が好きだった。 集団の中で何かを伝える時に出す、 あの低い唸り声が。
その女は別の者と眠っていた。 その者は、それを知っていた。 何も言わなかった。 言葉がなかったからではなく、 言う必要がなかった。
夜、火の番をした。 石を手の中で転がした。 ただそれだけの五年だった。
与えるものの観察:届かなかった。その者は石を転がしていた。それだけだ。